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新ラマーズ法について

第20回ラマーズ法研究会(平成14年10月20日)で話したことの大要です。

 前文の『「人間とは」を新ラマーズ法を通して考える』と重複する部分がありますが、何故新ラマーズ法と名付けたのかをお読み下さい。

・何故新ラマーズ法をするのか
出産の時、心と体を安らげる方法です。この安らげる、安心とはどのような状態を言うのでしょうか。


・安心とは

 人生には、良いとか悪いとか、嬉(うれ)しいとか悲しい、楽であるとか苦しいことなどがあり、これらは現実には否定しようもありません。そして同時に、表と裏の関係にあって1つのセットになっています。
禍(わざわい)は福の依る所、福は禍の伏す所と言います。また、佛教では、四苦八苦という言葉があります。四苦というのは生老病死の四つの苦しみで、この世に生まれ、子供を産み、歳をとり、病気になり、死を迎えます。次の八苦は愛別離苦、どんなに愛する人でも別れなければならない時が来る。怒憎会苦、憎いと思っている人でも付き合わなければならないことがある。求不得苦、欲しいと願ってもなかなか手に入らない。五陰盛苦、いろいろな欲望が止めどなくおきてくる。
 以上のようなものは人生ついてまわるものです。したがって、これらを否定するのではなく、また、喜怒哀楽に振り回されるのではなく、その中で一つの安定した落ち着き所を見いだすのが本当の安心と思います。
 それでは、どうすれば身心の安定が得られるのでしょうか。
 それは、自分自身の問題として、自分の交感神経と副交感神経との調和のとれた状態、即ち、身心の緊張と弛緩の調和のとれた状態に導くことしかありません。それは、事実は事実としてありのまま受け入れることで、ごく当たり前のことを当たり前にできることです。それは、人間として最高の状態と思います。悩み苦しみはこの状態になることが出来ないときにおきます。
 ただ、決して意識を鈍らしうっとりとした催眠、あるいはそれに近い状態に導くのではありません。
 出産の時、以上の状態を求めようとするのが新ラマーズ法です。その効果については後で述べます。

・人とは
 まず人とはということから話をすすめます。
 基本になるのは遺伝子です。その進化によって人は存在します。ただ遺伝子は人の骨格だけで、肉づけをするのが環境です。受精して胎内で育ち、出産、2〜3歳までが大切といわれていますが、以後も親の背中を見て育ちます。そして、学校、社会に出ていろいろな経験をして人格を形成してゆきます。そして、育った社会は勿論、国、地域の環境も大きな影響を受けます。

・人はどのようにして環境を感じ取るのでしょうか。
 私たちは、目でものを見たり、耳で音を聞いたり、鼻で匂いを嗅いだり、舌で味わったり、皮膚で触れるもの、また、内臓からもいろいろな情報が脳に入って行きます。
 例えば目で景色を見たり、人に会ったりします。すると目の網膜に像が写ります。その像が電気信号に変わり脳の中に伝えられて初めてその像がどのような物であるかを判断しているのです。美しい景色であるとか、会った人がどのような感じなのかを判断しています。したがって、各自の遺伝子、それまでの環境の違いによって脳は見方、感じ方が異なるのは当然です。したがって、人は真実を見ることが出来ないのかも知れません。自分が見たものだけを真実と思うな、他人が見ているものを間違いと思うなという言葉があります。しかし、私たちは出来る限り真実を見たい、感じとりたい、そのためには、脳と体全体が安定、調和するような状態になることが最善であり、その方法を模索したいとい思うのは当然と思います。

・無意識(第一次意識)と意識(第二次意識)について
 人類は、爬虫(はちゅう)類から哺乳(ほにゅう)類を経て進化、次第に大脳皮質が発達して意識(第二次意識)をもつようになりました。無意識の世界は、脊髄(せきずい)、延髄、視床、視床下部、海馬(かいば)、扁桃(へんとう)、辺縁系等で古い脳が含まれます。この部分は情動の中枢で、記憶にも関係しています。生きてゆくための基本的な中枢です。意識の世界は、大脳皮質で、主に言葉の世界です。口に言葉を出さなくとも、脳の中で言葉によって、あるいは、言葉以前の無意識の世界から浮かび上がる像によるイメージをつくり、現在のような新しい文化、文明を創り出しました。この領域は人類特有の知性の世界です。
 ただ脳内の電気信号は、古い脳から新しい脳に伝わるために情動が起きて始めて理性、あるいは知識の世界が広がってゆきます。言い換えれば意欲があって始めて新たな行動に移ることが出来るのです。
したがって、古い脳の安定、調和がもっとも大切になります。

・意識と無意識、それを突き抜けたところ
卵形の絵(図1,2)を見ていただきます。
上の白い小さい部分は意識の世界です。言葉で説明できる知性世界です。
有分節、(科学は物を分けて考えることから始まります。)とも言います。
 その下の黒い部分が無意識です。言葉では説明の出来ない世界です。遺伝子から生まれ育った環境の中で記憶にないものすべてが含まれています。したがって、意識の世界よりうんと大きい。よく、氷山とか、なすびに例えられます。氷山では海の上に現れている部分を意識、海水中に隠れている部分を無意識で、1対7以上の比率になります。また、なすびではへたが意識、実の部分は闇夜にも例えられる無限の無意識です。前に説明したように情動世界でもあります。、無分節、唯識ではマナ識、アラヤ識の部分です。魑魅魍魎が跋扈し、混沌とした所ともいいます。
この部分のために人間は限りなく振り回されるのです。そのようなとき、迷い苦しみ、ときには幻覚幻想が起きます。
宗教もこの無意識の部分に留まる場合とんだことになります。
 その下に明るい部分があります。この部分こそが本当に安定した、調和のとれた所です。この場所を悟り、覚とも言います。実は、もとの明るい平凡な世界です。
 ここまで突き抜けるのには呼吸法しかありません。即身、全身の力で呼吸法をします。ひと呼吸ごと、一瞬、一瞬上から下まで突き抜けることができます。
 新ラマーズ法の呼吸法はこの目的のためにあります。なお、出産時の特別な呼吸法は別の項で述べます。


図1図2

・Dr.ラマーズの言葉
 人類には数千年にわたって一つの呪いがかかっていた。それは、出産と痛みは永遠に密接に互いに依存すると思われていた。そして、出産という一生の内で最も誉められる行為を恐怖と諦めの中でただ堪え忍ぶ事を余儀なくされた運命的な伝統として代々伝えられてきた。これらは、妊娠、出産についての生理的事実の無知、間違った教育によって強められ、混乱を深める母地をつくった。そして、出産の痛みを軽くあるいは無痛にするための薬剤、また催眠法などにたよることは産婦の心の痛みを恐怖にたいする宿命的な思いを強くするのに役立つのみである。この条件付けられた痛みと恐怖の思いを除き、混乱した肉体と精神の安定をはかるために条件反射で新ラマーズ法を理論付けました。
 したがって、妊産婦教育の徹底が主張され、弛緩法、呼吸法は実技として行われていました。そして、ジェイコブソンの上肢、下肢の緊張と弛緩。呼吸法は吸ったり吐いたりする早い呼吸法で、それぞれが分離していました。
そこで、弛緩のための呼吸法として新たに作り直しました。
この弛緩法、呼吸法によって骨盤内筋肉の緊張が和らぎます。その結果、最後まで胎児を無理に圧迫することなく、また、産道の損傷も最小限度にすますことができるようになります。
 その上、弛緩によって軟らかくなった産道を胎児が合理的にうまく回旋出来るような分娩体位をとり、骨盤誘導線にそって無理なく晩出させる方法も加えました。
したがって、新ラマーズ法として、以下の項目を設置しました。
1.妊産婦教育
2.弛緩法、呼吸法
3.分娩体位と晩出法

それぞれについて説明を行います。

1.妊産婦教育
先に述べたDr.ラマーズの考え方。そして、出産するのは産婦自身であり、医療側は以上が起きたときにのみ援助をする。したがって、妊娠、出産についの理解、特に、新ラマーズ法をすることによってより安全な分娩につながることを説明する。

2.弛緩法、呼吸法
弛緩法は、頚部、肩甲の筋肉をゆるめることからはじめます。
実際の行い方は、別項をご覧ください。
とくに注意する点のみを述べます。
イ.弛緩と呼吸法は陣痛が始まったときから行ってください。始めは練習のつもりで。
ロ.弛緩と呼吸すること以外は何も考えない。
ハ.目は閉じてはいけません。半眼です。
ニ.舌の先を上顎につけ、声を出さない。
 以上は、うっとりとした、半睡眠状態を排除するためです。自律訓練法、ソフロロジー等の催眠法から発想されたのとは出発点が異なります。
弛緩法で練習したように、肩の力を抜きながら静かに長く息を吐きます。そして、最後に臍(へそ)のあたりの筋肉を緩めていきます。腹部に力を入れる呼吸法がありますが、この呼吸法を行うと、3kg前後の赤ちゃんがいる上に陣痛が加わり、痛みに耐え切れなくなります。
吐き終わると自然に空気は肺の中に入ります。それだけで苦しいようでしたら、力を入れないで短く少し息を吸うようにします。
したがって、この呼吸法は、従来行ってきた胸式呼吸ではなく、全身呼吸になります。
この他、妊娠中にすると役立つものとしてヨガがあります。ヨガはユガ行としてインドから、悟りへの道として伝えられてきましたが、現在、日本では大部分、一つの健康法として行われています。事実、普段使い慣れていない筋肉、特に骨盤周辺の筋肉をほぐすので、出産のとき役立ちます。
 また、リズム(調子)については、宇宙の運行から、私たちの体液の循環まで、それぞれのリズムがあり、弛緩法、呼吸法ともに始めは意識的にリズムに乗るようにすることは、自然に順応することで、安心、弛緩につながります。

3.分娩体位と晩出法
 とくにこの項を加えました。
 赤ちゃんが通る骨盤には骨の部分とその内部に筋肉が付着している部分があります。新ラマーズ法はその筋肉を和らげ伸びをよくするのです。
 そして、陣痛が始まると、骨盤誘導線(図3)に沿って赤ちゃんは下がり始めます。
 ただ人間の赤ちゃんの頭は、骨盤を通過するためにはぎりぎりの大きさです。しかも、骨盤の入り口、中程、出口など前後左右異なった形をしているので、その形に合うように、その上、最も小さく(最小周囲径)なって回旋しながらでしか通過出来ません。



図3

 赤ちゃんは、まず顎を自分の胸の方向にひきつけます。そうすると、先に進むのが最も周囲径の小さい後頭になるのです。次に、後頭部が前方恥骨結合の方に回ります。なぜ、前方に回らなければならないのかという理由は、児頭はおおよそおむすび形をしています。おむすびのとがった方が後頭で、平らの方は顔面になります。恥骨結合は弓状をしているので後頭が恥骨結合の方に回ると、弓状内面のくぼみに沿うことが出来ます。ところが、顔面が恥骨弓に向くと、恥骨弓のくぼみの中に入り込むことができないために、骨盤内空間を十分利用できずに、下がりにくくなります。 ですから、回旋が、反対に回りだしたりすると難産になります。
また、この他に、頭の軸が骨盤誘導線から外れると、それだけ通過面積が大きくなり通過が困難になります。

 そこで、赤ちゃんが正常に回旋するように、産婦が体位(姿勢)を変えると回旋を促すことができます。座ったり、歩いたり、四つばいになったりします。つまり、赤ちゃんを揺らして異常な回旋を防ぎ、また、骨盤内のどこかで引っかかっているのをはずして、下がるのを促すのです。

 また、横になるときは右向きか左向きかにして寝ます。そのときは、赤ちゃんの背中が上になるようにして寝てください。
このことは、医師、助産婦、看護婦の指導に従ってください。
 その理由は、後頭が上に位置すれば重力の関係で下の方の恥骨結合に向かって回旋しやすくなるからです。背中が下にあれば、後頭は重力に反して上の方に向かうことになります。したがって、回旋がスムーズに行われない時があります。
 
また、仰臥(ぎょうが)位(平たい所で仰向けに寝る姿勢)は大きくなった子宮と脊柱の間に子宮に行く大きな動静脈、特に、血管壁の薄い静脈管があり、その静脈管が圧迫されて、血液の循環が悪くなります。したがって、赤ちゃんに行く血液が少なくなる場合があり、好ましくありません。
そこで、現在では、座位分娩とか蹲踞(そんきょ)位分娩が行われています。
 座位分娩は、仰臥位に見られる血管の圧迫を少なくするためと、赤ちゃんの重力がかかるために分娩の進行が早くなるといわれています。
 蹲踞位分娩は、和式の便器を使用するのと同じ姿勢をとります。この姿勢は大腿部が腹部に近づくために、解剖学的に腰、仙椎の内面の部分が平らになり、また、恥骨が上方に移動します。
 このために、赤ちゃんが骨盤内を通りやすくなるのです。
 ただ、この姿勢を長くとり続けることは疲れるので、その姿勢のまま横になります。横になるもう一つの利点は、股が閉じることです。すると会陰が緩むのです。仰臥位で股を大きく開くと、会陰がはちきれそうになり、そこを赤ちゃんが通るとき裂傷を起こしやすくなります。この姿勢で出産するのを蹲踞側臥位分娩といいます。

 そして、弛緩法、呼吸法を行って、力を抜き、辛抱強く自然の陣痛にまかせると、赤ちゃんは骨盤誘導線に沿って無理をせず、圧迫もされないためにピンク色をした元気な赤ちゃんが生まれます。また、産婦にとって子宮、膣、会陰の裂傷が少なくなると同時に、本当に自分の力で産んだという自信と満足感を得ることが出来ます。
その上に、次の育児という忍耐をともなう喜びに向かうことが可能になり、その思いを次の代に伝える、という素晴らしい行為につながると固く信じています。

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